研究概要 |
p53は細胞周期停止やアポトーシスを誘導する転写因子であると同時に、最も有名な癌抑制遺伝子産物の一つである。p53機能の制御は転写レベルや翻訳後修飾などの観点から研究が進んできたが、申請者は最近p53機能に対するエピジェネティックな制御機構を発見した(投稿中)。クロマチンリモデリング因子CHD(ghromo-Helicase-DNA binding domain protein)は修飾されたヒストンに結合し、ATP依存的なヌクレオソーム形成や移動を行うと考えられている分子ファミリーである。CHDは種を超えて保存されており、ヒトではCHD1〜9の9つのメンバーが存在するが、その機能はまだ不明の点が多い。申請者らはその中の一つCHD8/Duplinについてノックアウトマウスを作製したところ、胎生早期にアポトーシスの異常.な亢進によりマウス胚が死亡することを発見した[NishiyamaM, et. al.,Mol.Cell.Bio1.(2004)]。そこでCHD8の欠損がなぜアポトーシスを引き起こすかという分子機序を解明する過程で、申請者は、CHD8がピストンHlをリクルートすることによってクロマチン構造の変化を起こし、p53の転写活性を抑制することを見出した。 さらにp53/CHD8ダブルノックアウトマウスでは、胎生早期におけるアポトーシスが回避され、マウスは延命した。これらの遺伝学的証拠はCHD8がp53の強力かつ生理的な抑制因子であることを示している。つまりCHD8はp53の暴走を防ぐ制御因子であり、その閾値を設定しているものと考えられた。
|