固形腫瘍においても、幹細胞様の性質を示す細胞群が含まれることが報告されて以来、がん組織の起源となる癌性幹細胞の存在が示唆されている。ヒト固形腫瘍細胞における幹細胞マーカー発現の意義を、腫瘍関連間質の形成能力という面から検討していくために、平成20年度は以下の解析を行った。 CD133陽性の大腸がん細胞株は、興味深いことに、前駆細胞様の性質を持ち、ある種の化学試薬などで大腸上皮細胞様の細胞へ分化することが報告されていた。そこで、RNA干渉によってGD133発現レベルを低下させた大腸がん細胞を作製し、酪酸ナトリウムによる分化誘導を解析した。その結果、CD133発現の低下は、細胞周期停止の開始を早める影響をもたらした。これは、がん遺伝子c-Mycの発現が酪酸ナトリウム添加後、急速に低下するためであった。また、当該細胞では、癌性幹細胞マーカーの一つとして考えられているCD44分子の発現低下が見られた。 これらの遺伝子は、β-カテニン/TCF経路の標的遺伝子として知られることから、CD133とβ-カテニン/TCF経路の関連性を検討した。その結果、当該経路を制御するために重要なβ-カテニン蛋白質量に異常があることが明らかになった。 前年度の結果も含めて、本研究から、CD133は腫瘍形成能力を賦与する機能を持ち、β-カテニン/TCF経路の制御に関連することが示めされた(平成20年日本癌学会にて報告)。現在、CD133発現低下がβ-カテニン/TCF経路の制御に与えた影響ついて、生化学的な解析を進めている(投稿準備中)。
|