癌組織でマクロファージや樹状細胞から産生されるIL-23は、T細胞からのIL-17産生を介して炎症を誘導し、癌の増殖を促進するが、IL-23産生が誘導される機構は明らかでない。我々は、解糖系の亢進によって癌細胞から高レベルに分泌される乳酸が単球/マクロファージからのIL-23産生を特異的に増強することを明らかにし、その作用機構と免疫系における役割を解析している。本年度は、乳酸が免疫応答に与える影響を解析した。乳酸は、抗原とペプチドグリカン(TLR2リガンド)またはBCG-CWS(TLR2/4リガンド)でマウス脾細胞を刺激したとき、IFN-γ産生は変化させなかったが、IL-23依存的にIL-17産生を著しく増強した。通常、抗原特異的T細胞の誘導は、TLRリガンド等のアジュバントによる抗原提示細胞の活性化を必要とするが、興味深いことに、TLRリガンド無しでも抗原と乳酸を加えるだけでIL-17産生がみられた。脾細胞の分画および再構築により、主にCDIIb陽性細胞とCD4陽性CD62L陰性メモリーT細胞がこの応答に関与していることが分かった。メモリーT細胞の代わりにNaiveT細胞を加えた場合、IL-17産生は誘導されず、Th17細胞への分化も誘導されなかった。さらに、マウスに癌細胞を移植して形成された癌組織からCD11b陽性細胞を単離し、乳酸と抗原の存在下でCD4陽性T細胞と混合培養すると、IL-17産生が見られたが、IFN-γは全く検出されなかった。以上の結果から、乳酸はアジュバント刺激の非存在下でもIL-23-IL-17経路を選択的に誘導することで、癌組織における炎症誘導に寄与している可能性が考えられた。
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