本研究はアフリカトリパノソーマの寄生生活下でのエネルギー収支を調節しているシアン耐性末端酸化酵素(TAO)のキノール酸化反応の分子機構を解明することを目指し、大腸菌で発現させた組み換えTAOを用いて詳細な機能解析を行うものである。 膜酵素であるTAOの可溶化後の安定化条件をもとにHis-Tagによるアフィニティ精製を行い、単一バンドのみが確認されるような精製TAOを安定に得ることが出来た。一段階の精製で十分な純度が得られたことから、数十mgスケールでの精製が比較的容易に出来るようになった。この精製TAOは酵素活性、阻害剤の感受性などにおいて可溶化前の膜から期待される性質を保持していた。さらに、この試料を用いICP-MSによる含有鉄定量を行った結果、酵素一分子に対して鉄が2原子含まれていることを初めて実験的に示すことになった。多くの金属含有酵素は可視光領域に吸収を持ち、すなわち色を持つが、これまで報告されている鉄二核錯体と同様に精製TAOは特に可視光領域の吸収を持たないことが確かめられた。次に精製TAOを用いた結晶化について検討した結果、まだ分解能は6A程度と低いものの、回折の得られる結晶化条件を見出した。これまでに結晶構造解析がなされている鉄二核錯体を持つタンパク質はすべて水溶性のタンパク質であり、膜タンパク質での結晶化の報告は未だ無い。この構造解析の結果はキノール酸化反応の機構を理解するのに有利であるだけでなく、膜結合性鉄二核錯体タンパク質の研究を牽引する研究になることが期待される。
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