昨年度、熱帯熱マラリア原虫染色体より、セントロメア領域をクローニングし、これを組込んだ人工染色体の作製に成功した。本年度は人工染色体の改良を目的とし、テロメア領域を組込んだ人工染色体の作製を試みた。まず、熱帯熱マラリア原虫とネズミマラリア原虫(P. berghei)のゲノムを比較し、テロメア領域の配列が保存されていることを確認した。次にネズミマラリア原虫よりテロメア配列をコードするDNA断片のクローニングを行った。その結果、約500bpの長さを持つテロメア配列を得ることができた。次にこのテロメア領域を500bpのスペーサー領域を挟んで向かい合うようにクローニングしたテロメアカセットを作成した。作製したテロメアカセットを既に構築していた人工染色体に組み込み、テロメアとセントロメアを組込んだ人工染色体を構築した(これをT-PfPACと名付けた)。続いて環状及び直鎖状のT-PfPACをエレクドロポレーション法により、熱帯熱マラリア原虫へ導入した。その結果、環状のT-PfPACはセントロメアのみを組込んだ人工染色体とほぼ同等の効率で原虫内に導入することができたが、直鎖状のT-PfPACはこれらよりも効率が劣っていた。次に環状及び直鎖状T-PfPACの原虫内での安定性を調べた。その結果、環状のT-PfPACは原虫内で安定的に保持されたが、直鎖状のT-PfPACは分子内で相同組換えを起こすことが明らかとなった。以上の結果より、本研究では環状化人工染色体を構築することに成功したが、直鎖状の人工染色体を作製するためには更なる検討が必要であることが明らかとなった。
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