近年、エキノコックス流行地である北海道では、愛玩動物として飼育されているイヌのエキノコックス感染事例が報告されてきている。現在、イヌのエキノコックス症の診断には感染したイヌの糞便中に存在する寄生虫由来の分泌/排泄物を免疫学的に検出する手法が主に用いられているが、エキノコックスの成虫は感染したイヌから自然に排出されてしまう場合があり、このような場合のイヌの検体は偽陰性と判定されてしまう恐れがある。また、飼い主や試験実施者が糞便を扱う際に感染の危険も伴う。本研究では、イヌの糞便ではなく、血清を用いる診断法を開発するため、感染イヌの血清中の抗体価を上昇させるような寄生虫由来タンパク質を探すことを目的とした。 昨年度までに見いだした抗原候補遺伝子を基に組換えタンパク質を作成し、その中で最もエキノコックス感染イヌ血清に特異的で感度良く反応する抗原の評価を行った。その中、EMY-162という分泌性タンパク質、カテプシン(細胞内消化酸素)様のタンパク質およびputative hsp20が、優れた反応を示した。しかしながら、そのうち前二者は幾つかの健常イヌ血清にも反応を認めず、今後有望な抗原として開発を進めると共に、現在その成果について海外他論文へ投稿中である。さらにputative hsp20の性質を調べたところ、本寄生虫のほぼすべての成育段階(幼虫、幼弱成虫および成熟成虫)にその遺伝子発現を認めた。Hspはいくつかの感染症原因生物において強い免疫原性を示す事が知られ、ワクチン抗原候補として見いだされている。本抗原は全ての成育段階に発現していることから診断抗原のみならず、終宿主に対するワクチン効果を発現する可能性も期待される。
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