ピロリ菌体内で産生されたCagA蛋白はIV型分泌機構を介して胃上皮細胞内に注入された後、細胞内のSrcファミリーチロシンキナーゼによりリン酸化される。これまでに、ヒト胃上皮細胞由来のMKN28細胞及びMKN45細胞を用いた研究により、CagAがリン酸化非依存的にβ-cateninシグナルを活性化することを見いだした。本研究は、CagAが結合する新規細胞内標的分子を明らかにし、CagAがβ-cateninシグナルを活性化する分子機構を解明することを目的とする。 通常、β-cateninはE-cadherin結合蛋白として細胞膜近傍に局在しているが、β-cateninシグナルが活性化された細胞では細胞質及び核内に集積することが知られている。そこで、申請者はMKN28細胞を用いて樹立したCagA安定発現株における細胞内β-cateninの解析を行った。その結果、CagA発現細胞ではβ-cateninが細胞膜から核内へ移行していることが示された。また、免疫沈降法を用いたCagA結合蛋白の探索を進めた結果、CagAはリン酸化非依存的にE-cadherin複合体と相互作用することを見いだした。さらに、CagAがE-cadherin/β-catenin複合体に及ぼす影響を調べたところ、CagA発現細胞ではE-cadherin/β-catenin複合体形成率が減少していることが明らかになった。従って、CagAはE-cadherinとの結合を介してE-cadherin/β-catenin複合体形成を阻害する結果、β-cateninの細胞質・核内蓄積ならびにそれに引き続くβ-catenin標的遺伝子を転写活性化する可能性が示唆された。
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