赤痢菌が引き起こす下痢疾患により、発展途上国では乳幼児を中心に毎年多くの人命が失われている。一方、国内ではキノロン系耐性を含む薬剤耐性赤痢菌の出現により、抗生剤による治療が困難な場合が増加している。赤痢菌の臨床分離株はほとんどが多剤耐性菌であることから有効なワクチンが求められているが、赤痢菌は感染に伴い激しい炎症を誘導するために、現在において存在する弱毒化した生菌ワクチンではその安全性が保証されておらず、実用化は難しい。このような状況下において、ワクチン開発を含めた効果的予防法、治療法を確立するために、赤痢菌の感染機構を分子レベルで明らかにすることが急務とされている。 病原細菌にとってマクロファージによる貪食殺菌からの回避は、感染成立を決定づける重要な要因であることから、本研究は赤痢菌感染に伴い引き起こされる宿主マクロファージ細胞死誘導の機構を解明することを目的とした。研究の結果、我々はマクロファージに細胞死を誘導する赤痢菌TypeIIIエフェクターを特定した。そして、本エフェクターがin vitroにおいてE3ユビキチンリガーゼ活性を示し、ipaf inflammasomeを活性化させCaspase-1依存的マクロファージ細胞死(pyroptosis)を誘導することを明らかにした(論文作製中)。更に、本エフェクターの有無が宿主の炎症応答に大きく影響することを見出した。本研究成果は、赤痢菌感染に対する宿主粘膜炎症応答の強さを決定する因子を特定したものであり、本研究により得られた知見は、炎症は最少化され、且つ、防御反応は最大限に誘導される理想のワクチン開発に貢献するものと期待される。
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