本研究において、腸管病原性大腸菌のマウス感受性細菌であるCitrobacter rodentiumに一度感染したマウスは、癌転移が減少するという現象をもとに、そのメカニズムの解明と、それを応用した抗転移ワクチンの創製を目指して研究を行った。現在まで、転移抑制メカニズムとして、感染に伴う自然免疫の活性化によるガン細胞の排除などではなく、Citrobacter rodentium感染によって生成される抗体が重要であることが明らかとなっている。そこで、この抗体が何を認識しているのかプロテオーム解析を行った。ガン細胞として用いたB16細胞の細胞表面をビオチン化した後、ストレプトアビジンビーズを用いて細胞膜を単離した。これをSDS-PAGEをして分離し、感染および非感染血清を用いてウェスタンブロットを行った。これにより、感染したことでB16細胞表面にクロス反応するバンドをいくつか検出することに成功した。次に、このクロス反応したバンドを、ゲルから切り出し、質量分析により蛋白質を同定した。その結果、癌転移に重要であることが知られているいくつかの蛋白質が候補に挙がった。今後これらのどの蛋白質が重要であるかを検証する。次に、抗転移ワクチン株の作成にあたり、組織障害性、特に抗原提示細胞に対する傷害性問題であると考えた。そこで、様々なIII型分泌装置分泌蛋白質の変異株を作成し、食食細胞にたいする細胞傷害活性を測定した。しかし、どの変異株も野生株と同様の傷害性を示した。
|