研究概要 |
ボツリヌス菌は産生する神経毒素の抗原性からA〜G型に、A型とB型はA1〜A4, B1〜B3, bivalent B, bivalent(Ab, Ba, Bf型)に分類されている。近年、G型菌の性状は他の菌とは異なるため、Clostridium argentinenseという新種に独立された。最近、A, B, F型菌の全ゲノム塩基配列が報告された。現在、C, D, E型菌のゲノム配列の決定が進められている。これらの中で、A3, B1, Ba4型菌はプラスミド上に毒素遺伝子がコードされている。E型ボツリヌス毒素遺伝子の由来と伝達機構を明らかにする手がかりとして、今回、C型菌においてC2毒素(C2)遺伝子をコードするプラスミド(pC2C203U28)の全塩基配列の決定を行った。本毒素はC2IとC2IIからなる2成分毒素で、両者の共存下で生物活性を示す。本プラスミドの解析を進めることで、伝達機構の解明につながる可能性があると考え、C2遺伝子の由来を明らかにすることを目的として、C型菌プラスミドの全塩基配列を決定し、様々な特徴を明らかとした。 pC2C203U28の全塩基配列は、106, 981bpの環状2本鎖DNAで、GC含量は26.7%であった。本プラスミド上には、C2を含む123個のタンパク質をコードする領域(ORF)が同定されたが、tRNA遺伝子は存在していなかった。また、核酸代謝に関与する多数の遺伝子が存在し、その並びが保存されていた。さらに、3つのRNA polymerase σ因子が存在し、いずれもσ70ファミリーのextracytoplasmic function(ECF)σ因子のグループに属していた。-方、本プラスミド上には、新しいタイプのinsertion sequence(IS)とその残骸が存在し、ISとしての構造を確定することができた。 他のC型(C-Stockholm株とC-468株)とD型菌(D-1873株)について、プラスミド上の各遺伝子が保存されているかを調べるため、PCRスキャニング解析を行った。C型とD型菌ともC2遺伝子を含む下流領域(70kb)においては、ほとんどの遺伝子が保存されていたが、C2遺伝子の上流領域(35kb)では、C型菌のみ保存されていない遺伝子が多かった。そこで、C型とD型菌のプラスミド構造の比較するため、その上流領域の塩基配列の決定を行なったところ、C型とD型菌とも、非常にゲノム構造のバリエーションが認められた。 最近、G型毒素遺伝子をコードするプラスミドの全塩基配列の決定も進めている。本プラスミドのサイズは、PFGE(パルスフィールド電気泳動)と毒素遺伝子をプローブとしたサザンハイブリダイゼイションから、約140kbであった。既知の毒素遺伝子を基に、インバースPCRにより配列決定を進め、約100kbの配列が決定できている。今後、残りのギャップ領域の配列決定を行い、本プラスミドの種々の特徴を明らかとし、毒素遺伝子の伝達機構(ファージ変換や接合伝達を含む)の解明に大いに貢献したいと考えている。
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