細菌ゲノム中には多くの外来性遺伝子(群)が含まれることが分かってきたが、構造的にmobile elementとは認められないケースも多く、そういった外来性遺伝子の伝達メカニズムはほとんど明らかになっていない。大腸菌におけるO抗原の変化はO抗原コード領域が外来性のそれと入れ換わることにより起こると予想されるが、その一般的メカニズムも明らかになっていない。本研究では、以下の方法に従って大腸菌のO抗原コード領域が入れ換わる遺伝的なメカニズムの解明を試みた。まず、異なる進化系統に属しているにも関わらず同じO抗原型を示す菌株は、それぞれが共通するO抗原コード領域を水平伝播により獲得した可能性があると考えた。そこで本研究室で保有する大腸菌株とデータベース上の配列を用いて、MLST解析により系統とO抗原型の関係を調べた。そして異なる3つの進化系統群に属するO55抗原型株を見出した。それぞれの代表株について、O抗原コード領域周辺の塩基配列(約65kb)を決定して比較解析を行った。その結果、明らかな変異頻度の違いから、それぞれのO55抗原型株は共通するO抗原コード領域(約20kb)を含む40kb以上の領域を水平伝播により獲得し、O55抗原型株へと変化したことがわかった。組換え予想部位にはISや繰り返し配列など特別な配列は見出されなかった。以上の結果から、環境中ではO抗原の変換が比較的頻繁に起こっていると予想された。今後、「異なる進化系統に属しているにも関わらず同じO抗原型を示す菌株」や「進化系統的には極めて近縁であるが異なるO抗原型を示す菌株」の比較解析をおこなうことによりO抗原変換メカニズムの特異性や共通性が明らかになると期待された。
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