ウエルシュ菌α毒素は、ヒツジ赤血球に作用すると百日咳毒素感受性のGTP結合タンパク質を介して内因性のスフィンゴミエリナーゼを活性化させ、セラミドを生成すること、さらに、生成したセラミド分子種のうち、脂肪酸側鎖が飽和であるC24:0-やC16:0-セラミドと比較して、不飽和結合を有するC24:1-セラミドやC24:2-セラミドがスフィンゴシン、及び、スフィンゴシン1-リン酸へ代謝されやすいことを明らかにしてきた。本年度は、生体内に微量しか含まれておらず、市販もされていないC24:2-セラミドを合成し、α毒素による溶血とC24:2-セラミドの関係について解析した。我々のグループは、C24:2-セラミドの化学合成に成功した。さらに、本化合物をヒツジ赤血球に作用させた結果、α毒素による溶血作用を濃度依存的に亢進させ、その効果は、C24:1-セラミドと同様、あるいは、それ以上であった。従って、α毒素による溶血に不飽和結合を有するスフィンゴミエリン分子種が密接に関与することが強く支持された。また、不飽和結合を有するリン脂質の増加は、細胞膜の不安定化、あるいは、老朽化の指標どなることも示唆された。 さらに、α毒素の受容体の探索をウサギ好中球、マウスマクロファージ、そして、PC12細胞を用いて行った結果、TrkA受容体(神経成長因子受容体)が本毒素の受容体のひとつであることを見出し報告した。また、NGFは、末梢における炎症を増強することが報告されていることから、α毒素による高度の全身性炎症にTrkAを介するシグナル伝達系の活性化が深く関与していることが推察された。従って、ウエルシュ菌感染症治療にTrkA受容体阻害剤が有効であると考えられる。
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