本研究では、既に得られている17アミノ酸残基からなるペプチドのTLR4シグナルの阻害メカニズムを明らかにすることを目的の一つとして掲げている。マクロファージ様細胞を用いたLPS刺激によるTLR4シグナルの阻害をメルクマールとしたTLR4シグナル阻害ペプチドの短縮化は、その活性中心の同定を可能とするだけでなく、同時に得られると予想されるTLR4シグナル阻害活性を喪失したペプチドは、同ペプチドの作用機序を解明するうえで、ネガティブコントロールとして極めて有用なツールとなり得る。今回の一連の研究により、TLR4シグナル阻害ペプチドを10残基にまで短縮化することに成功し、さらにTLR4シグナル阻害活性が認められない派生ペプチドも得られた。これらペプチドは、今後の同ペプチドのTLR4シグナル阻害活性のブラッシュアップに寄与することは勿論、前述のTLR4シグナル阻害ペプチドの作用機序の解明に利用でき、将来的にはTLRファミリーによる病原体の認識機構の共通の分子基盤の検討にも利用できる可能性を内包している。 本ペプチドの臨床応用に向けて感染実験による薬理活性の評価は不可欠である。LPSにより致死率100%を呈する条件下のエンドトキシンショックモデルにおいて、本ペプチドはその致死性を完全に回避する薬理作用を有する。今回、敗血症モデルとしてより臨床に近いと考えられる穿孔性腹膜炎モデルにおいて本ペプチドの薬理効果を評価するために同モデル系の構築を実施し、各穿孔レベルにおける致死率を検証した。その結果、18もしくは19ゲージの注射針でSPFのC57BL/6マウス(7週齢)の盲腸を2箇所穿孔する処置を行った場合、死亡率が数日内に約40〜100%に達することが明らかとなった。今回得られたデータは、今後穿孔性腹膜炎モデルに対して本ペプチドを投与する場合の条件検討に応用可能と考えられる。
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