研究概要 |
腸管出血性大腸菌が保有する病原性遺伝子群LEE(locus of enterocyte effacement)の転写発現は,LEEにコードされるセントラルレギュレーターLerによって正に制御されている。Lerの発現は,同じくLEE領域内にコードされるGrlAおよびGrlRによって正および負に制御されている。これまでの我々の研究から,GrlAはLerを介したLEEの遺伝子発現制御のみならず,運動器官であるべん毛の形態形成や機能発現に関わる遺伝子の発現を負に制御していることが明らかとなっている。これらの表現型は,いずれもGrlR欠損下でGrlAが脱抑制することによって起こることが明らかとなっている。我々はこのGrlR変異株をさらに解析する過程で,腸管出血性大腸菌が分泌する溶血素(エンテロヘモリシン)の活性が著しく上昇することを見出した。この表現型はLerとの二重欠損株でも同様に観察されるが、GrlAとの二重欠損株では消失することから、Lerの機能を介さずにGrlAに依存して見られる現象と考えられる。今年度の研究から,エンテロヘモリシンオペロンの先頭の遺伝子ehxCとlacZとの転写融合遺伝子。FLAGタグとの翻訳融合遺伝子をゲノム上で作製し,それぞれの発現量を解析した。その結果,エンテロヘモリシンの発現レベルはGrlAによって活性化し,この制御は転写レベルで行われていることを確認した。これらの結果はRT-PCR法によっても確認された。GrlAに依存したエンテロヘモリシンの活性化は他の臨床分離O157株でも同様に確認されたことから,O157に共通な発現制御機構であることが明らかとなった。LEEの発現制御因子GrlAは少なくともべん毛およびエンテロヘモリシンの活性を制御するグローバルレギュレータであることが示唆された。
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