我々は、宿主細胞の癌抑制遺伝子産物RbがHCV(C型肝炎ウイルス)複製により負に制御されることを発見し、ウイルスのRNAポリメラーゼNS5BがRbに結合してタンパク質分解を誘導することを昨年報告した。RBは網膜芽細胞腫で変異が発見された癌抑制遺伝子であるが、HCV以外にアデノウイルスやヒト・パピローマウイルス等のDNAウイルスの共通の標的因子としてRbが再発見され、ウイルス感染による細胞の癌化でRbの果たす役割は広く認知されてきた。今回我々は、Rbのリン酸化状態を変化させることがHCVの複製にどのような効果を及ぼすのか調べるため、Rbをリン酸化するサイクリン依存性リン酸化酵素(CDK)の阻害剤がHCVの複製に及ぼす効果を観察した。 CDKにはCDK1からCDK11までが存在するが、Rbのリン酸化に直接関わるのはCDK2、CDK3、CDK4、CDK6である。我々はまず、CDK1、CDK2、CDK5の阻害剤である阻害剤A、CDK4の特異的阻害剤である阻害剤Bを始めとして、六種のCDK阻害剤を使用して、培養細胞でのHCVへの効果を検討した。その結果、阻害剤BがHCVの複製を抑制することをレプリコン細胞と感染細胞の両方の系で発見した。また、この阻害剤は1型のHCVのみならず2型のHCVにも抗ウイルス作用があり、複数の遺伝子型のHCVに共通の効果があることが判明した。次に、HCV感染細胞でCDK4を過剰発現したところ、HCV複製の増加が観察された。従って、実際にCDK4がHCV複製に関与していることが明らかとなった。CDKの阻害剤でHCVの複製が阻害されることは新しい知見であり、その分子機構及びモデル動物での薬効を更に解明することで、インターフェロンを中心とした現在の治療法で効果のない感染者の治癒を目指している。
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