研究概要 |
C型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染に因する肝発がんの予には、HCVをから排除し、HCVの持続感染による慢性肝炎を治療することが重要である。HCVの持続感染機構を解明するために、HCVと自然免疫機構に関する研究が国内外のいくつかの研究グループによりなされてきた。しかしながら、いずれの研究もHCV RNAの持続複製が可能ではあるが、ウイルス感染認識に重要なTLR3/TRIF経路の機能が欠損している肝がん細胞株HuH-7細胞(RIG-I/IPS-1経路は機能を保持している)でなされてきた。研究代表者はTLR3/TRIFおよびRIG-1/IPS-1両経路の機能を保持しているヒト不死化肝PHsCH8細胞(HCV感染に対する感受性を有し、低レベルではあるが、HCVRNAの複製も起こる)で、HCVのNS3-4A蛋白質(セリンプロテアーゼ及びヘリカーゼ活性をもつ)がインターフェロン(IFN)-βの産生を抑制できる場合(人工二本鎖RNAを細胞内添加した場合)と抑制できない場合(人工二本鎖RNAを細胞外添加した場合)があることを見出している。そこで、当該年度では、このNS3-4A蛋白質の機能的な違いの原因を明らかにすることを目的として、研究を遂行した。 最初に、IFN-βの産生抑制がNS3-4A蛋白質のどの機能に依存しているか調べるために、セリンプロテアーゼあるいはヘリカーゼ活性を欠失させるような変異体を作成した。これらの変異体のうち、セリンプロテアーゼを欠失させた変異体では、IFN-βの産生を抑制することはできなかった。次に、IFN-βの産生に重要なIRF3の活性化に対するNS3-4A蛋白質の影響を、非変性ゲルを用いてIRF3の二量体形成を指標として調べたところ、IFN-βの産生抑制と相関して、人工二本鎖RNAを細胞内添加した場合ではNS3-4A蛋白質はIRF3の二量体形成を抑制したのに対し、人工二本鎖RNAを細胞外添加した揚合ではIRF3の二量体形成を抑制することはできなかった。また、従来の報告どおり、人工二本鎖RNAを細胞外添加した場合、PH5CH8細胞でもTLR3/TRIF経路を介してIRF3が活性化され、それに伴いIFN-βが産生されていることがわかった。そこで、NS3-4A蛋白質の標的分子の候補として報告されているTRIF、IPS-1両蛋白質に対する影響を調べたところ、NS3-4A蛋白質はIPS-1蛋白質は切断するが、予想外にTRIF蛋白質は切断できないことがわかった。NS3-4A蛋白質によるTRIF蛋白質が切断されない現象は従来の報告とは異なっているが、当研究室で樹立されたHCV RNA持続複製細胞でも確認された(FEBSJ, 2007) 次に、無症候性キャリアー、急性肝炎、慢性肝炎及び肝がん患者血清由来の各種病態NS3-4A発現ベクターを作製し、IFN-βの産生に対する抑制能に違いがあるかどうか検討したところ、いずれのNS3-4A蛋白質もIPS-1蛋白質は切断するが、TRIF蛋白質は切断できないことがわかった。また、各種病態間で、その抑制能に大きな違いはなかった。一方、PH5CH8細胞でも人工二本鎖RNAを細胞外添加した場合、IFN-βの産生経路とは別に、TLR3/TRIF経路を介してNF-kB経路を活性化していることがわかった。そこで、NF-kB経路の活性化に対する各種病態由来のNS3-4A蛋白質の影響を調べたところ、いずれのNS3-4A蛋白質もNF-kB経路の活性化を抑制することはできなかった。このことはHCV RNA複製に伴う肝内の炎症状態が持続されることとなり、肝発がんの一因となりうることが予想される(投稿準備中)。 また、HCV RNA複製に必要な宿主因子に関する研究(J.Virol,2007)やIFNとの併用でのHCVRNA複製抑制効果が期待される栄養製剤に関する研究(AAC,2007)においても、次年度以降、HCVの持続感染機構を理解するのに重要な研究成果が得られた。
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