C型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染により引き起こされる肝発がんを予防するためには、HCVを体内から排除し、HCVの持続感染による慢性肝炎を治療することが重要である。HCVの持続感染機構を解明するために、HCVと自然免疫機構に関する研究が国内外のいくつかの研究グループによりなされてきた。本年度の研究の結果、ヒト不死化肝細胞株であるPH5CH8細胞内において、HCV NS5BのRNA依存性RNAポリメラーゼ活性によりHCVゲノムの非存在下でも二本鎖RNAが産生されることがわかった。また、HCVの近縁ウイルスであるGBV-B由来のNS5Bでも二本鎖RNAは産生された。産生された二本鎖RNAは、RIG-I、MDA5、あるいはTLR3のような細胞内の二本鎖RNA認識受容体のいずれによっても認識され、下流へとシグナルが伝達された後、IFN-betaの産生が誘導されることが明らかとなった。しかしながら、RIG-IやMDA5のアダプター分子であるCardifはNS5BによるIFN-betaの産生誘導機構に含まれていたのに対して、TLR3のアダプター分子であるTRIFは含まれていなかった。また、RIG-I/MDA5経路とTLR3経路の両経路に関与することが報告されているNAP1もNS5BによるIFN-betaの産生誘導機構に含まれていたことからも、合成二本鎖RNAであるpoly(I-C)の細胞外刺激とは異なるTRIFを介さない経路の存在が示唆された。 一方、NS5Bを恒常的に発現するPH5CH8細胞ではIRF-3が二量体形成後、核内でIFN-beta遺伝子の転写を活性化した後に分解されている可能性が示唆された。これに対して、TRAF6をノックダウンしたPH5CH8/NS5B細胞では内在性のIRF-3の二量化が観察されるようになった。TRAF6はE3ユビキチンリガーゼ活性を持つこと、また、IRF-3もユビキチン-プロテオソーム系において分解されることがこれまでに報告されており、何らかの関係が示唆される。このように自然免疫システムを撹乱するNS5Bに対抗する手段を得ることは、HCVの持続感染を断ち切ることができる可能性を示唆しており、今後の重要な研究課題であると考えられる。 また、HCV RNAの複製を生細胞で観察できる全長HCV RNA複製細胞(Virus Res. 2008)、急性肝炎由来の全長HCV RNA複製細胞(BBRC. 2008)やHCV RNA複製に必要な宿主因子に関する研究(J. Virol. 2008)においても、HCVの持続感染機構を理解するのに重要な研究成果が得られた。
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