研究概要 |
AIDS患者数は全世界で約3300万人存在し、年間210万人もの人が亡くなっている。近年アジアにおける感染者の激増が世界的な問題となっているが、先進国の中で感染者数が増え続けているのは日本だけである。HIVの潜伏感染はAIDSにおける最も大きな問題の一つであるが、潜伏感染に対する有効な治療手段はなく、潜伏感染に関する基礎研究は緊急の課題となっている。我々はこれまでに、AP-4がEDACをHIVゲノム(LTR)ヘリクルートすることによりクロマチンレベルで潜伏感染維持に関与していることを報告してきた。今回の研究課題ではHIV潜伏感染機構の成立と破綻のメカニズムを転写レベルでより理解するために、LTRに結合するAP-4を含む複合体や新たなHIV抑制因子の同定と、それら抑制因子の遊離機構に関して研究を行った。まず潜伏感染維持に関わる分子の同定のために、LTR DNAカラムとHela細胞の核抽出液を用いたDNA一蛋白結合実験を試みた。その結果、LTRに結合する因子として数本のバンドが確認でき、現在そのいくつかの分子についてHIV複製における役割を解析している。 また潜伏感染の破綻機構についても研究を進め、歯周病の原因菌がHDAC阻害活性を有する酪酸を放出することによって、HIVを再活性化することを見出した。歯周病原菌はHWゲノムに直接作用しヒストンをアセチル化するとともにAP-4とHDACの阻害を介してRIVを活性化していることが明らかとなった。本研究成果は、世界中の多くの人が罹患している歯周病がAIDS進展のリスクファクターになりうることを示し、J. Immunology誌(182(6), p3688, 2009)に掲載されると共にAFP通信など世界中の報道機関によって紹介された。
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