研究概要 |
ウイルス侵襲に対する脳のケモカイン応答は感染局所への白血球の動員を促進し,病原体の排除に働く。脳では主としてグリア細胞がケモカインを産生することが知られているが,その詳細は分かっていない。本研究は,ウイルス侵襲に対するグリア細胞のケモカイン応答を生体レベルで明らかにすることを目的とする。平成19年度における本研究では,ウイルス侵襲を受けたマウスの脳におけるケモカインおよびケモカイン誘導因子の時間的・空間的な発現様式を解析した。向神経性ウイルスである狂犬病ウイルスをC57BL/6J系統マウスの大腿部筋肉内に接種した。麻痺が生じるまでの時点(0,1,3,5,7日後)において灌流による脱血処置を施した後,脳を採取した。大脳(嗅球,終脳)および間脳,小脳,脳幹(中脳,橋,延髄)からRNAを抽出し,リアルタイムPCRを用いてケモカインおよびケモカイン誘導因子の発現量の変動を調べた。ウイルス接種マウスの脳では,数種類のケモカイン(CXCL2,CXCL10,CCL2,CCL3,CCL5)の発現量が増大することが分かった。また,感染初期においては,CXCL10が大脳以外の領域において,CCL2とCCL3,CCL5が脳幹と小脳において,CXCL2が小脳において応答することが分かった。さらに,ケモカインの発現を間接的に誘導する因子を調べるため,同様の手法によってサイトカインの発現パターンを解析した。感染初期では,インターフェロン(IFN-β)が脳幹において,また,炎症性サイトカイン(IL1-β,IL-6,IL-12,TNF-α)が脳幹と小脳において顕著に発現誘導されることを示した。以上の結果から,ウイルス侵襲を受けた脳では,各領域においてケモカインの応答性の相違があること,また,脳幹と小脳におけるケモカイン応答にはサイトカインによる間接的な発現誘導が関与することを明らかにした。
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