昨年度の成果(Nature 448 : 929-933(2007))に墓づき、平成20年度はIgA腎症自然発症(HIGA)マウスを用いて、IgA腎症発症機序ならびに高IgA生産誘導機構を明らかにすることを目的とした。 IgA腎症は腎糸球体メサンギウムへのIgA沈着に特徴付けられる疾病であるが、加齢(40週齢)マウスおいて、IgA沈着はHIGAマウスのみならず野生型 (C57BL/6J)マウスでも検出されたので、HIGAマウスにおける高IgA生産誘導機構に焦点を絞り、その解明を目指した。HIGAマウスの血清IgA量や小腸粘膜固有層のIgA^+形質細胞数は野生型マウスと比較して著しく増加していたが、バイエル板におけるIgA^+B細胞数に差は認められなかった。また、野生型マウス由来B細胞と比較してHIGAマウス由来B細胞では、in vitroにおけるIgAクラススイッチが著しく低下しており、なかでもT細胞非依存性クラススイッチを誘導する樹状細胞 (DC) 由来サイトカイン(APRILIBAFF)の刺激に対してIgAをほとんど生産しなかった。このことがら、HIGAマウスではDCの機能が低下していることが考えられた。この可能性について検証したところ、HIGAマウスでは全身性に従来型DC (cDC) が減少しており、さらに粘膜関連リンパ組織(MALT)のcDCはIgAクラススイッチの誘導に重要なレチノイン酸の合成酵素の活性も著しく低下していた。これに対して、HIGAマウスのMALTでは形質細胞様DC (pDC) の割合が増加していた。そこで、IgAクラススイッチ誘導におけるpDCの重要性を明らかにするために、野生型マウスの骨髄細胞から誘導したpDCおよびcDCをB細胞と共培養した。興味深いことに、pDCはcDCよりも効果的にIgAクラススイッチを誘導することが判明した。以上の結果から、HIGAマウスにおける高IgA生産誘導機構には、pDCが重要な役割を演じている可能性が示唆された。
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