研究概要 |
日本における肝臓移植は約99%が生体ドナーに依存しており、1989年以来3000例を超える症例数は世界的にもほかに類を見ない。健康なドナーの身体にメスを入れる生体肝移植において、最優先されるべきはドナーの身体的・心理的安全の確保である。しかし、肝左葉からより容量め多い肝右葉を摘出する症例が増え、ドナーに対する術後のリスクが増大していることが問題視されるようになった。日本肝移植研究会が生体肝移植ドナーの国内全数2,667例を対象に行った質問紙調査によると、47%のドナーが術後も何らかの身体症状があると答え、約40%が今後の健康に不安を感じると回答していた。その一方で、1/4を超えるドナーが医療的フォロー・アップをまったく受けていないという現状が明らかとなった。だが、生体ドナーの心理・社会的問題については、質問紙などを用いて集団の傾向を明らかにする量的研究だけでなく、インタビューの逐語録など言語データを用いた質的研究を行う必要があることが指摘されてきた。数量的データのみからでは、個別性の高いドナーの体験やニーズの具体的な詳細を把握することは難しいからである。本研究では、術後のドナーにインタビューを行い、その体験や心理・社会的ニーズの経時的変化を概念モデルとして示すことを目的とした。平成20年度は、生体肝移植ドナーの長期予後(特に健康状態や心理状態)に関する先行研究のレビューにもとづき、インタビュー項目を抽出し、本調査を実施する予定であったが、異動先で当該研究の遂行が不可能となり、継続を断念せざるをえなかった。
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