災害医療活動においては、医療スタッフの現場への搬送、さらに傷病者の被災地からの移送が極めて重要であり、搬送活動をシステムとして捉えた社会基盤整備が必要である。そこで、医療分野の視点・ニーズを十分に捉えつつ、防災工学や交通工学のもつシステム評価手法をベースとして、複数搬送手段の参加する災害・救急医療活動によって期待される効果とその程度を定量的に明らかにする手法を確立することを本研究の目的とした。本年度は米国ケンタッキー大学に研究拠点を置き、米国における調査研究に重点を置いた。まず、米国ケンタッキー州における震災時における道路ネットワークと緊急システムについて、特に、ケンタッキー大学で開発された震災時における橋梁の早期損傷診断および情報収集システムによる道路ネットワーク仮復旧までに期待される時間短縮効果を求めた。西ケンタッキー地域に適用した場合、通常の点検では全橋梁の点検終了までに70時間以上を要するところを事前点検と組み合わせた戦略により約5時間には緊急車両の徐行での通行が可能であることを示した。したがって初期の5時間には空路による搬送を中心に議論すべきと考えられる。あわせて、米国における広域避難についての調査研究を進めた。ハリケーンなどによる大きな災害が予想される際には、被害が発生していない段階からの避難が開始される。この際の交通規制の手段、道路交通の確保、交通機関との連携などについてレビューを行った。今後はこれらの成果を我が国に適用した場合に期待される点や問題点を明らかにし、具体的な防災計画へ適用していくことが大きな課題である。
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