【目的】科学技術の進歩や受療者のニーズ・価値観の多様化に伴い、医学研究・医療従事者の対応はガイドラインやマニュアルだけでは対応できない複雑な問題を抱えるケースが増加している。このような中で倫理的判断を行うには、現場に出るまでの学部生や研修生(医)の期間に、系統的かつ継続的な教育が重要と考えられる。本研究では、国内医学部における「生命倫理」の卒前・卒後教育の実施状況を調査し、学習内容やカリキュラム、指導方法などについて、その問題点への対策と効果的な教育支援策について検討する。 【方法】本年度は、初年度全国80大学医学部調査回答の分析(論文投稿)を行い、さらに医療倫理教育担当者を対象とした医療倫理教育コアコンピテンシーに関するデルファイ調査を実施した。調査項目は、初年度全国調査から医療倫理教育の目的・効果についての自由記述を抽出し、教育目的(15項目)、教育効果(12項目)、具体的目的(低学年・高学年)(18項目)、医師の職業倫理(8項目)として、リッカートスケール(5段階評価)を用いたアンケート調査を郵送した。さらに実際の医療倫理教育のプログラム分析を行った。研究班では新たに看護、歯学部、生命倫理学分野を加え、医学部教育について、多角的に討議された。3月には、医療倫理教育卒前プログラム開発として20名前後の教育者による医学部での望ましいコアカリキュラム具体案を検討した。 【結果】デルファイ調査初回は広く国内から医療倫理教育者の意見を収集し37名の回答(教育担当者指名回答率78.3%)が得られた。「教育目的」上位項目は(1)人間とその価値観の多様性に対する認識を持たせる、(2)基本的知識を提供する、(3)判断する力・考える力(態度)を持つ、(4)患者中心の医療・全人的医療を実現する、(5)プロフェッショナリズムと社会性を涵養する、であった。 【考察】本研究結果から、医学部における現状の医療倫理教育では人的リソースが限られているが、低学年では講義形式のみでなくグループワークや視覚教材、ケース演習等の臨場感のある場面設定により"具体的事例に興味を持つ"ことから始め、医療倫理の素養を身につけること。高学年では実際に臨床現場で遭遇する可能性の高い症例を適宜導入することで、倫理問題について考えを深め、患者・医師関係、危機管理、コミュニケーションについて理解し、適切な医療が行えるよう実践力を磨くことが重要とされた。 【結論】今後は臨床場面での医療倫理教育(臨床倫理)導入について検討し、指導者育成や卒後の生涯教育も含めた長期的対策支援が必要である。
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