国内医学教育における医療倫理は、これまで"医の原則"としてその重要性が認識されてきたが、現場での倫理的問題への対応について、どのように医学生に教育しているか明らかでない。本研究では、国内医学部における医療倫理の卒前・卒後教育の実施状況を調査するとともに、教育者による現状認識と今後の課題について検討した。学務担当者へのプレ調査(79大学回答)では医療倫理を履修する学年は低学年が高率(1年次61%)で、5-6年次は11%であった。医療倫理教育担当者が一貫してカリキュラムを担当していたのは54大学中28%であり、看護学生、保健学科などの他学部との合同教育を実施していたのは15校だった。教育担当者への調査では、「ベッドサイドティーチングへの医療倫理教育導入」が教育体制への満足と関連する可能性が示唆された。教育内容が十分であるかについて、教育者の専門分野を調整したロジスティック回帰モデルで検討したところ、「医療従事者を交えた講義やディスカッションあり」が有意であった。本研究結果から、医学部における現状の医療倫理教育では人的リソースが限られているが、低学年では講義形式のみでなくグループワークや視覚教材、ケース演習等の臨場感のある場面設定により"具体的事例に興味を持つ"ことから始め、医療倫理の素養を身につけること、高学年では実際に臨床現場で遭遇する可能性の高い症例を適宜導入することで、倫理問題について考えを深め、患者・医師関係、危機管理、コミュニケーションについて理解し、適切な医療が行えるよう実践力を磨くことが重要とされた。今後は臨床場面での医療倫理教育(臨床倫理)導入について検討し、指導者育成や卒後の生涯教育も含めた長期的対策支援が必要であるとの結論を得た。
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