研究概要 |
我が国では、1998年以降、毎年3万人を超える人が自殺により命を落としている。そのため、我が国では有効な自殺対策の実施が強く求められている。効率的で効果的な政策立案のためには、実証的な根拠を(エビデンス)構築する臨床研究が必要不可欠である。本研究は、自殺ハイリスク者を対象とする臨床研究でのリスクマネージメントの課題を検討し、我が国における自殺ハイリスク者を対象とする臨床研究ガイドラインの策定を目的とした。 本年度は、前年度に継続し、研究の科学性、倫理性に関する系統的な情報の蓄積、議論の整理を行った。治験を含む国内外での自殺ハイリスク者の臨床研究の実施状況を把握するために臨床試験登録データベースを用い、自殺に関連した国内、国外の臨床試験を抽出し、その解析を行った。その結果、世界的にも、自殺リスクがある対象にもかかわらず、精神医学的代替指標を利用する研究がほとんどであり、真の評価項目である自殺企図を主要な指標にした試験はまれであることが解明された。NIMH(米国、国立精神研究所)が策定した「Issues to Consider in Intervention Research with Persons at High Risk for Suicidality : NIMHガイドライン」の日本語への翻訳作業を行った。さらにNIMHガイドラインと日本精神神経学会の臨床研究における倫理綱領及びの「臨床研究に関する倫理指針(2008年7月改訂, 2009年4月施行」」との対比を行い、日本における適用可能性の検討を行った。その結果、データ安全性モニタリング委員会の設置、モニタリング方法の強化など日本の事情にあわせた対応が必要である事項が明確となった。複数の領域の専門家の意見を交え、自殺ハイリスク者を対象とする臨床研究ガイドライン案の策定を行った。
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