ミコフェノール酸モフェチル(MMF、ミコフェノール酸のプロドラッグ)は、移植後の拒絶反応を抑制する目的で、タクロリムスやシクロスポリンなどのカルシニューリン阻害剤と併用されることが多い。しかしながら、重篤な下痢などの副作用のために、MMFの服用中止を余儀なくされている症例がある。また、タクロリムスとミコフェノール酸を併用した場合、それぞれの薬物の至適投与法に関する情報は不足している。本研究では、ミコフェノール酸のみならず、主要な免疫抑制剤として汎用されているタクロリムスも解析対象とし、これら薬物の体内動態変動因子、及び副作用関連因子を解明することを目的とした。60名の成人生体肝移植患者を対象に、タクロリムスの母集団薬物動態解析を実施した。経口クリアランス(CL/F)に対する影響因子として、患者背景や臨床検査値、小腸及び移植肝MDR1やCYP3A4/5などの遺伝子情報を検討した。その結果、CL/Fは移植後14日目まで経日的に増大し、その後一定となることが明らかとなった。術直後のCL/Fは、小腸MDR1 mRNA発現量と有意に関連することが判明した。また、小腸CYP3A5*1アレルを有する患者は、*3/*3の患者と比べ術後経過に伴うCL/Fの回復速度が、1.47倍大きいことが明らかとなった。さらに、血清クレアチニンの上昇(術前ベースラインから0.5mg/dL以上)を指標に、タクロリムスによる腎機能障害を術後1年間に亘り評価した。その結果、腎機能障害の発現頻度は、ドナーではなくレシピエントのCYP3A5*3/*3の患者で有意に高いことが判明し、腎臓CYP3A5はタクロリムスによる腎機能障害と関連することが示唆された。 研究計画初年度では、免疫抑制剤の体内動態変動因子、及び副作用関連因子に関する有用な情報を得ることができた。次年度以降、実施計画を進め、研究目標の早期達成を目指す。
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