本研究は、フタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)の吸入曝露による生殖への影響、特に生殖器官形成期である思春期前、次世代影響を明らかにする目的で、妊娠ラットを用いた吸入曝露実験を行った。曝露影響を評価する場合、生殖器の奇形などの肉眼的な変化に焦点を当てた高用量のみの研究では、胎児期、幼若期曝露に関して正確な安全濃度を提示することができない。そこで、ヒトが実際に曝露される可能性があるバックグラウンドレベルに近い低濃度と、高濃度で吸入曝露しその影響を検討した。この検討により、ヒトでの影響を外挿する際の重要なデータが得られる。これまでに、幼若オスラットへの吸入曝露により、テストステロンの濃度が変化すること、幼若メスラットへの吸入曝露により、異常性周期の割合が高くなること、そして、その卵巣内でのステロイド合成酵素mRNA発現量への有意な変化が認められる事を明らかにしてきた。 生殖器官形成期である幼若期での影響を明らかにすることを目的に、妊娠期吸入曝露による次世代影響を、胎児期での生殖線への影響の検討と、出生後の生殖線の成熟への影響を組織学的、分子生物学的に検討した。その結果、胎児期に精巣内においてテストステロン濃度の低下と、テストステロン合成に関わる酵素の遺伝子発現がDEHPの濃度依存的に減少していた。出生後オスラットにおいて、組織学的、遺伝子発現において顕著な影響は認められなかったが、テストステロン分泌の低下がみとめられた。
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