研究概要 |
地域、医療、福祉、環境などさまざまな分野で社会的格差が問題となっており、その打開策として地域社会の凝集性やソーシャルキャピタルに関心が高まっている。社会疫学の分野では健康やWell-beingを増進するためには生活習慣、健康関連行動など従来からの個人レベルの要因に加えて、社会環境や地域社会といった社会集団レベルでの特徴や要因が重要であるとの認識から、ソーシャルキャピタルが注目されている。本研究では、公式確認から50年以上が経過した水俣病問題に焦点をあて、被災地域住民の健康度に関して社会疫学研究を実施した。 水俣病の特徴は、第1に、メチル水銀に汚染された魚介類を多食した個人のみならず、食を共にした「家族」や「地域」の全体に影響を及ぼした「集団の病気」であること、第2に、50年もの長期にわたって補償問題が続いたことに起因するさまざまな社会的要因がこの疾患の地域的分布のばらつきに影響していることにある。 平成19年度には、不知火海沿岸の3市3町(熊本県芦北町、津奈木町、水俣市、天草市御所浦町、鹿児島県出水市、長島町)の住民2,100名を対象に、地域社会のソーシャルキャピタルに関する郵送法による質問紙調査を実施した(有効回答1,228票)。平成20年度には、調査データの分析を進めた。その結果、地域の健康格差が認められ、健康度が低い地区は、第1に水俣病補償を受けた者の割合が多い、第2にソーシャルキャピタルが低下している、ことが確認された。地域の健康格差は、水俣病補償者数の増加によって生じた補償格差と地域社会のソーシャルキャピタルの低下が介在していると考えられた。今後、既存資料の検討、聞き取り調査の実施などを行い、公式確認から50年以上という時間的経過の中で、どのような場面において地域社会内部で補償格差が表出し、ソーシャルキャピタルの低下に結びついたのかについて明らかにしていく予定である。
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