2002年に健康保険からの新しい支払い方式として導入された「DPCに基づく包括支払方式」は、医療の標準化と適切な医療資源の消費を目的に導入されたが、この制度では医療機関の経営効率化も意図されていた。しかしながら、このような包括的な支払制度の導入によって、医療機関の経営が効率化されたという証拠は諸外国にもなく、本研究の実証研究でも制度が導入された医療機関と、導入されなかった医療機関の時系列的な生産性変化を測定した結果、導入された医療機関で生産性が改善されたという統計的事実は確認されなかった。この制度は科学的根拠に欠けたものであるが、問題はなぜ科学的な根拠が政策に反映されなかったのかということであり、そのためには政策形成のプロセスも同時に理解する必要がある。平成19年度には定量的な分析を行う一方で、医療政策における政策決定と実施のプロセスについて他の事例も含めて検討した。その結果、90年代に選挙制度が大幅に変更になったことなどにより、従来よりも政策決定過程は透明化され、また民意も反映されやすくなったものの、政策の実施過程で意思決定の内容が実施されうるか否かという点で流動的な状況が続いているということが明らかになった。別の言い方をすれば、政策が実施されるために必要なモニタリングシステムが十分に成熟していないということである。研究代表者が当初予想していたよりも、これらの事象は広範に観察されるということが予想され、引き続き諸外国との比較研究を含めて研究を進めることとした。
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