【目的】脂肪肝や糖尿病等の生活習慣病の発症や進展には酸化ストレスが関与すると考えられる。本研究では、抗酸化作用を有するグルタチオンS転移酸素(GST)遺伝子多型と非アルコール性脂肪肝(NAFLD)及び糖尿病の関係について検討した。【方法】施設倫理委員会承認の元、日本赤十字社熊本健康管理センターの人間ドック受診者のうち、同意が得られた469例(男性327例、平均年齢53.2歳)を対象とした。NAFLDの診断は非飲酒者で超音波検査により脂肪肝を認めた者、糖尿病の診断は日本糖尿病学会の診断基準に基づいて行った。末梢血のDNAを用いGSTM1、GSTT1及びGSTP1の遺伝子多型をPCR法で判定し、疾患との関係について解析した。【結果】糖尿病者は63例(13.4%)、超音波検査を施行した非飲酒者253例中、NAFLDは69例(27.3%)であった。GSTM1欠損、GSTT1欠損及びGSTP1変異群ではNAFLDの頻度がそれぞれ高かったが有意差はなかった。糖尿病でも同様の傾向を認め、GSTT1欠損群ではオッズ比(OR)が2.1と有意に高かった。NAFLD及び糖尿病の頻度は2つの変異を併せ持つ群では、それぞれの変異を持たない群に比してORは有意に高かった(NAFLD;3.5〜4.1、糖尿病;1.9〜4.2)。さらにGST遺伝子変異を3つ持つ群では、3つ持たない群に比して、NAFLD及び糖尿病の頻度が有意に高く、ORはそれぞれ9.6、6.2と高値であった。【考察】本研究では、GSTの遺伝子変異数が増加するにつれてNAFLD及び糖尿病の頻度が段階的に増加し、ハイリスクGST遺伝子型の組み合わせにより影響が強くなることを明らかにした。以上の知見は予防医学上有益で、GSTの遺伝情報からハイリスク群を特定しNAFLDや糖尿病の早期発見や個別化予防対策を効率的に実施することが可能になると考える。
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