肝細胞増殖因子とは1984年にわか国においてラット初代培養肝細胞のDNA合成促進因子として部分肝切除ラットの血清より見出された。現在では肝細胞だけでなく上皮系、血管内皮細胞や一部の癌細胞など広範囲の細胞に対して増殖作用や遊走作用を持っていることが明らかとされている。そのためHGFは動脈硬化やがん発症との関運が示唆されているがいまだにその臨床研究は十分ではない。 我々は1999年に福岡県田主丸地区において1474人もの一般住民を対象として血清HGF濃度を測定している。そこで今回その1474人の一般住民を対象としてその8〜9年後の動脈硬化性疾患の進展発症を検討することを研究目的とした。同時に癌発症との関連性を検討することも第二の目的とした。まず我々は研究対象者である一般住民全員に再検診の依頼用紙を送付した。再検診は住民が訪れやすいように最寄の公民館3箇所で行った。労働人口層のためには夜間の検診を実施し、移動手段の無い高齢者のためには自宅訪問を行った。またベースライン時より8年経過しており施設等に入所している高齢君も多かったため施設での訪問検診も実施した。検診の内容は血圧測定、動脈硬化進展発症の有無(高血圧発症の有無、降圧薬内服の有無、脳心血管疾患発症の有無)、癌発症の有無などの詳細な病歴聴取およびエコーでの総頚動脈の内膜・中膜厚の計測を行った。また1474人のうち約120人がこの8年間で死亡しておりその死亡年月日、死因も調査した。かかりつけ医や近隣の救急病院でのカルテおよび死亡診断書の閲覧を実施した。検診対象者が1474人と大規模でありその追跡調査には膨大な時間と労力を要した。2年に及ぶ追跡調査により1464人もの予後調査を終了した。その追跡率は99.3%であった。我々の解析により血清HGF濃度が高いほど全死亡と癌死亡に相関があるという興味深い結果を得ることができた。死亡のリスクを採血で評価できるかもしれないという今回の結果は今後我が国の予防医学の発展に寄与できると確信している。今後さらに長期的にフォローアップを続けることで死因別の検討など更に新たな病態解明を続けていく予定である。
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