現代社会では生産効率や社会福祉サービスの向上を目的として幅広い産業分野において交替制勤務が採用されているが、不規則な生活習慣を強いられる交替制勤務者においては従来から種々の生活習慣病のリスクが高まる可能性が報告されてきた。最近では特に乳がんや前立腺がんなどの悪性腫瘍のリスク上昇の可能性が国際的にも注目されており、本邦においても日本人を対象とした疫学調査の実施が希求されていた。一方で交替席勤務と関連する疾病リスクの評価は従来から、数十年にわたる勤務状況の正確な追跡調査が困難であることなど質の高い研究の実現には困難がつきまとっていた。この問題に対処するため、研究代表者は某企業に1981年来記録されている交替制勤務従事歴と定期健康診断結果および近年採用された前立腺がん健診結果の情報提供を依頼した。本研究はこの貴重なデータを用いて交替制勤務に従事する労働者の生活習慣病リスクの質の高い評価を実施することを目的としている。 研究は三力年計画で進捗している。初年度となる本年の最も重要な課題は、疫学研究の実施にあたって個人情報保護等の倫理的課題に関して適切な対策を計画することであった。この点については「疫学研究に関する倫理指針」(文部科学省、厚生労働省)に則り計画を立案し、平成19年10月に開催された産業医科大学倫理審査委員会においてその内容について審査を受け、承認を得た。その後、研究協力企業に正式に研究協力の依頼を行い交替制勤務従事歴や定期健康診断結果等のデータ提供を受けた。なお、研究協力企業に対しては研究の目的や意義、方法、倫理的配慮について詳細な説明を研究代表者が繰り返し行い、充分な理解と賛同を得ることで初めて研究協力が実現されたことを申し添える。次年度は提供を受けたデータの統計解析を実施しつつ「前立腺がん検診有所見者に対する追跡調査」を行い、研究完遂に向け着実に前進してゆく予定である。
|