研究概要 |
トルエンの慢性的な吸入は,肝臓に種々の障害を引き起こすことが知られている,本研究の目的は,シンナーを慢性的に吸引する人における肝障害の発生機序を明らかにすることである.まず,トルエンの肝臓への直接的な影響を見るために,ヒト肝癌細胞(HepG2)を,トルエン0,0.05,0.1,0.25,0.5,1,2.5,5mMの存在下で、それぞれ24,48,72時間培養し,ニュートラルレッドの取り込みを指標として,HepG2細胞の生存数を計測した。その結巣,それぞれの群に差は認めちれず,肝細砲の死滅を引き起こすようなトルエンの毒性は認められなかった.そこで,トルエン存在下でHepG2細胞を培養し,P4502E1とHSP70の免疫染色を行うことにより,トルエンの肝細胞に対する傷害作用について検討した,薬物代謝酵素であるP4502E1は,有機溶剤などの毒性物質を代謝することにより更に毒性を強め,肝臓障害を引き起とすといわれている.HSP70は,細胞障害を防御する役割があるといわれている.P4502E1とHSP70の両方とも,トルエン0.1mM,24時間の処置により染色性の亢進が認められ,P4502E1では,1mM,48時間と10mM,72時間の処理において,HSP70では,1mM,72時間と10mM,48時間および72時間において強い染色性の亢進が認められた.この結果から,トルエン暴露による肝細胞の障害が引き起こされ,また,細胞障害の発生が,トルエンの濃度と暴露時間に影響される可能性が示唆された. 今後トルエン存在下のHepG2やラットの肝細胞を用いて,肝臓の繊維化の発生機序について,肝線維化に影響を及ぼす因子であるレプチンやグルココルチコイドの組織分布および分子生物学的な検討を行う予定である.
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