研究概要 |
研究最終年にあたる本年度は, 外傷性の頭蓋内椎骨動脈破綻によるクモ膜下出血剖検例の検討を行い, 内因性椎骨動脈解離症例との病理形態学的鑑別を試みた. 具体的には, 外傷性・内因性事例の左右椎骨動脈を一括包埋し, 連続横断切片標本を作成し, 比較検討を行った. その結果, 最も特徴的な形態学的鑑別点として, 内因性動脈解離では先行する中膜血腫の結果, 破綻部位の外膜が伸展しているのに対し, 外傷性動脈破裂では動脈の全層破綻により外膜の伸展が見られないことが確認できた. その他に, 非破綻部位の血管所見として, 外傷例では非破裂の内膜・中膜亀裂や内弾性板の分断化が観察された. 一方で内因性の動脈解離例では中膜の壊死または変性が全例に認められ, 陳旧性の非破裂の動脈解離像が約半数に確認された. また, これらの形態学的変化は, 発症から死亡まで数週間の経過があった事例に於いても確認が可能であった. 以上の所見は, 肉眼所見だけでは鑑別が困難な頭蓋内椎骨動脈破綻によるクモ膜下出血例の内因・外因の鑑別に極めて有用と考えられ, 国際シンポジウムにて発表した. さらに, 昨年, 内因性椎骨動脈解離の発生原因として中膜病変の重要性を指摘し, 腹腔内動脈解離の原因のひとつであるsegmental arterial mediolysisとの関連を報告したが, 今回, 椎骨動脈解離と腹腔内動脈解離が合併した事例を経験し, 両者の関連をより強く示唆する事例として学会および国際誌に報告した.
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