近年、凶悪化傾向にある性犯罪は、加害者および被害者が単数でなく、複数の人間が関与するケースも多い。本研究においては、性犯罪試料をはじめとした男女混合試料を中心に、関与する個人を特定することを目的とし、法医学的個人識別への応用の可能性について検討した。 インフォームドコンセントを得た成人男女ボランティアから提供された膣内溶液および精液を用いて混合試料を作成した。試料は複数の男性が関与している性犯罪を仮定し、1名の膣内容液に対し、2名ないし3名の精液を混合した。試料からDNAを抽出し、mitochondrial DNA(mtDNA)のsequence解析を施した。その一方で、一部混合試料から塗抹標本を作成した。精子の存在を確認後、レーザーマイクロダイゼクション・システムを用いて精子を単離し、各精子から個別にDNAを抽出、同様にmt DNA sequence解析を施し、混合試料からの結果と比較・検討を行った。その結果、混合試料からはsequenceのピークが重複する箇所が複数認められ、複数のヒトに由来するDNAが混在していることを示していた。一方で、マイクロダイゼクション・システムにより単離した精子からは、単一のsequence配列の解析が可能であった。また対照試料からの結果と照合することで、各精子が由来する人物を特定することが可能であった。 今回、レーザーマイクロダイゼクション・システムを用いることで、DNA検査の対象を精子等の細胞単位まで縮小することが可能であり、検査に必要なDNA量の回収が可能であることが示された。また最小単位の試料からDNAを回収することで、複数存在する関係者の中から、試料の由来性を正確に判断できる可能性が示唆された。正確でかつ迅速な検査結果を要する犯罪捜査等において、関係者のDNA型の違いが判然とし、事件の早期解決に役立つと思われる。
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