【目的】不安定な世界情勢により炭疽菌を中心に生物テロの危険性が高まっている。我が国においても、地下鉄サリン事件に先行して、オウム真理教団がボツリヌス菌培養液や炭疽菌培養液の散布を行なった事件が発生しており、より早急な対策が望まれている。そこで、今回我々は散布試料をいち早く同定するために、炭疽菌をはじめとする病原細菌の簡易酸抽出物を対象にMALDI-TOF-MSのスペクトルパターンでの迅速異同識別を試みた、 【実験方法】寒天平板培地上の細菌を1%TEAに懸濁し、ビーターによる破砕抽出あるいはボルテックスミキサーで簡易抽出し、無菌濾過したものを細菌抽出サンプルとした。これをマトリックス溶液に混和し、MALDI plateのスポットにアプライした。常温で風乾後、MALDI-TOF-MSで測定し、専用解析ソフトウェアのAutoflex及びBioTyperで解析を行った。 【結果】テロへの使用が最も危惧されているY.pestis、 F.tularensisについては、酸溶解性低分子タンパク質が描くMALDI-TOF-MSの特異マススペクトルパターンが得られ、これらの識別が可能であった。また、いくつかの病原微生物については、属間あるいは種間共通のバイオマーカー及び株特異ピークも検出出来た。テロへの使用が最も危惧されているB.anthracisにおいてはPasteurII株とDavis株で明らかなスペクトル差異が見られ容易に株識別が可能であった。 【考察】本手法は、抽出過程から解析まで30分以内で行うことが可能であり、データーベースを構築することで、炭疽菌、ペストなど病原微生物の検出及び識別が可能であった。
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