内臓刺激中に測定した脳波データ、脳機能画像データおよび血中神経化学物質データを、時間周波数解析および共分散構造解析を用いて再分析し、内臓知覚中枢処理過程の時空間パターンとその高次相関を抽出することで機能的神経回路を推定し、機能的連関を調節する物質を特定することが、本研究課題の目的である。平成20年度は、脳機能画像データの共分散構造方程式モデリングを用いて、空間的に異なる脳領域間の神経活動の共変性(covariance)を高次相関として抽出することにより、機能的神経回路を推定することを目指した。 対象は、成人健常ボランティア16名から得られた大腸伸展刺激中の脳機能画像を用いた。催眠暗示文脈の異なる鎮痛、過痛、中性の3つの条件に分類し、内臓刺激脳賦活画像データベースを作成した。さらに消化管刺激直後に採取した静脈血18mlを3000rpmで遠心し、血漿を分離し、摂氏-40度にて凍結保存した。凍結保存した血漿から血漿オキシトシン濃度を測定した。 まず腹部症状の催眠変容効果と局所脳血流量が相関した15の脳領域を算出した。この内臓知覚催眠変容マトリクス内の脳領域から局所脳血流量の値(ROI)を抽出した。次にこのROI値を共分散構造方程式モデルに投入した。その結果、眼窩前頭皮質と腹内側前頭前野が右背外側前頭前野の活性化と腹部症状の変容効果との関連に対して有意な仲介効果を示した。さらに、この右外側前頭前野の機能的連関における催眠感受性の個体差について検証した結果、催眠感受性の高い群のみがこの機能的連関の強さと腹部症状との有意な正の関連を示した。 以上の結果より、消化管知覚を催眠暗示によりトップダウンで変容させる脳部位として、右背外側前頭前野と眼窩前頭皮質の機能的共役が重要であることが示唆される。
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