副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)は、ストレス反応における重要なメディエーターの1つであり、脳内CRFの遊離の亢進が、視床下部室傍核(PVN)から脳幹・脊髄へ投射されるCRF含有神経線維を介して、交感神経-副腎髄質系の賦活に深く関与していると考えられている。このCRF作用が過剰に持続することが、うっ病や不安障害に関連する病態引き起こすのではないかと推測されているが、その機序について詳細は未だ明らかではない。私達はこれまでに、CRFによる交感神経-副腎髄質系賦活化の調節機構に関与する因子について解析をすすめてきたが、その1つである一酸化窒素は、CRFによる賦活持続性に重要な役割を担うとえられる。 そこで本年度ほ、CRFによる交感神経-副腎髓質系賦活における一酸化窒素合成酵素(NOS)の役割に関して、交感神経-副腎髄質系の調節中枢であるPVNにおいて形態学的検討を行った。交感神経系に投射するニューロンを標識するため第8胸髄・中間外側細胞柱に逆行性トレーサーを注入した後、CRFを脳室内投与して、PVNにおけるc-FosおよびNosアイソザイム(iNOS、nNOS)の発現を解析した。逆行性トレーサーによりPVNのdorsal cap、ventral part、posterior partの細胞が標識された。これら全ての亜核において、CRF投与の1および3時間後に、c-FosとiNOSを共発現したトレーサー標識細胞数が有意に増加した。また、ventral partでのみc-FosとnNOSを共発現したトレーサー標識細胞が有意に加した。以上の結果から、CRFによる交感神経-副腎髄質系賦活に主としてiNOSが関与していることが推察される。
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