副腎費刺激ホルモン放出因子(CRF)は、ストレス反応における重要なメディエーターの1つであり、また、交感神経-副腎髄質系賦活に深く関与している。CRF作用の過剰な特続が、うつ病や不安障害に関運する病態を引き起こすのではないかと推測されているが、その機序の詳細は未だ明らかではない。そこで本年度は、CRFによる交感神経-副腎髄質系賦活の調節因子の1つとして、一酸化窒素合成酵素(NOS)の脳内発現の形態学的解析を行った。 まず下行性交感神経線維を標識するため、ラット胸髄・中間外側細胞柱に逆行性トレーサーを微量注入した。14日後にCRFを脳室内に投与して、投与後1ないし3時間後に脳を採取した。NOSアイソザイム(iNOS、nNOS)に対する免疫組織染色を行い、視床下部室傍核(PVN)の3ヵ所の亜核に存在する下行性交感神経線維細胞体での各NOSアイソザイムの発現を解析した。CRF投与の1および3時間後に、iNOS陽性細胞数は有意に増加した。一方、CRF投与によるnNOS発現の変化は認められなかった。さらに、神経活動のマーカーであるFosとNOSアイソザイムの二重染色の結果、両者が共存する細胞数を解析したところ、活性化したiNOS陽性細胞数(Fos+iNOS)は3ヵ所の亜核全てにおいて有意に増加した。一方、活性化したnPNPS陽性細胞数(Fos+nNOS)は1ヵ所の亜核でのみ増加が認められた。以上の結果から、CRFによる父感神経-副腎髄質系賦活には主としてiNOSが関与していること、また、nNOSの発現増加を伴わない酵素活性の上昇が領域特異的におこる可能性が推測された。
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