本研究の目的は、5年生存率が5-10%と極めて悪い小細胞肺癌に対して、治療の選択肢となりうる薬剤を開発することである。昨年度までに、烏薬から単離した新規セスキテルペンが小細胞肺癌細胞、およびそのシスプラチン耐性株に対して細胞傷害性を示し、その機序についてサイクリン依存的に細胞周期をG0/G1期で停止させることを明らかにしてきた。次に、各種阻害剤を用いて、新規セスキテルペンが小細胞肺癌細胞、およびそのシスプラチン耐性株に対して示す細胞傷害性の機序に更に検討を加えた。その結果、抗酸化剤であるN-acetylcysteine(NAC)、還元型グルタチオンの共添加により、新規セスキテルペンの両細胞に対する傷害性が消失した。このことから、新規セスキテルペンが細胞内還元型グルタチオンと結合して枯渇させた結果、細胞内が酸化的状態になり細胞傷害性を示すものと考えられた。実際に活性酸素の産生をフローサイトメーターにより確認した。また、細胞内カルシウムキレーターであるBAPTA-AMの共添加による影響はなく、細胞内カルシウム濃度は変化していないものと考えられた。また、in vivoの実験系による抗腫瘍効果検討を行った。昨年度の急性毒性試験の結果、烏薬から単離した新規セスキテルペン静脈内投与により神経毒性が発現し、最大投与可能量は50mg/kgと判断している。シスプラチン耐性株を背部皮下に移植したヌードマウスにシスプラチンを50mg/kg投与しても腫瘍増殖抑制作用は認められなかったが、新規セスキテルペン50mg/kg投与により腫瘍増殖抑制作用が認められた。しかしながら、神経毒性を示す投与量と有効量の差が小さく、より低用量で抗腫瘍活性を示す様、構造的改善が継続して課題として残った。
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