近年、白血病のみならず、乳癌や大腸癌などの固形腫瘍においても極少数の幹細胞が存在し、自己複製と限られた分化を繰り返しながら腫瘍構成細胞を供給し続ける『癌幹細胞システム』を形成することが明らかにされつつある。これらの細胞は、正常幹細胞における自己複製機構に類似した機構を保有し、発癌・再発過程に密接に関与すると考えられている。われわれは、幹細胞分離法の1つであるSide population(SP)細胞分離をヒト肝癌細胞に応用し、複数の細胞株において、全細胞数の1%にも満たないSP細胞画分が、癌幹細胞として機能することを報告している。さらに、造血、神経幹細胞などにおいて、自己複製分子として機能するポリコーム群遺伝子産物Bmi1が、肝癌のSP細胞において高発現しており、レンチウイルスを用いたノックダウンによって、その自己複製能と造腫瘍活性が顕著に低下することから、肝癌のSP細胞の維持においてBmi1が必須である可能性が示された。 一方、癌幹細胞は、「新たに癌を造る能力を持った細胞」であるが、その発症母地として「正常の組織幹細胞」である可能性が指摘されている。肝発癌においても、従来から卵形細胞(oval cell)などの幹・前駆細胞が発生母地となる可能性が示唆されてきたが、詳細は不明な点が多い。われわれは、フローサイトメトリーを用いて純化したマウス胎児肝臓由来の肝幹/前駆細胞に対して、Bmi1を強制発現すると過剰な自己複製が惹起され、逆にノックダウンするとリプレーティング活性が有意に抑制されることを報告している。さらに、Bmi1を強制発現した肝幹/前駆細胞を免疫不全マウスに移植すると、肝癌と胆管癌の2つの構成要素を併せ持つ腫瘍が形成されることから、幹・前駆細胞における自己複製制御異常が、重要な発癌イベントの1つであると考えられた。
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