肝臓は、生体のホメオスタシスを司る重要な臓器であり、血清蛋白質の合成や毒物・アルコールの解毒、アミノ酸・脂質代謝といった多岐にわたる機能を持っている。投与した薬物がヒト体内で代謝・分解される薬物動態の解析は新規薬剤開発において重要な過程となる。しかし、ヒトと実験動物では薬物代謝経路や代謝酵素の基質特異性が異なることから、臨床治験の前段階としてどのような実験モデルを組むかが非常に難しい。そこで、本研究ではヒト肝細胞を使用した試験管内薬物代謝評価システムの構築を目的として、肝幹・前駆細胞の純化法の開発および肝幹・前駆細胞の増殖を誘導する機構の解明を目指した。成体マウス肝臓を酵素的に分散させFACSセルソーターにより細胞分画を行ったところ、c-kit^-Sca-1^-CD45^-Ter119^-integrinα6^+画分に単一の細胞からコロニーを形成できる増殖性の高い幹・前駆細胞の候補が存在することを明らかとしている。そこで、さらに肝幹・前駆細胞を純化するために、様々な抗原抗体の染色によるスクリーニングを行った結果、CD13陽性の画分に肝幹・前駆細胞が濃縮されることがわかった。また、肝幹・前駆細胞の増殖を制御する転写因子としてProx1を同定した。Prox1を肝幹・前駆細胞に強制発現することで細胞周期関連遺伝子の発現制御を介して細胞増殖を制御することがわかった。以上の結果から、今後この系を用いることでCytochromeP450等の薬物代謝関連遺伝子の発現制御や薬物を添加した際の反応性の検討に使用できると考えている。
|