研究概要 |
本研究は,慢性障害肝において肝細胞が抗アポトーシスを獲得するメカニズムをスフィンゴ脂質シグナルを中心に明らかにすることを目的としている。平成19年度は,そのメカニズムに肝臓に存在するクッパー細胞が重要な役割を果たしていることを見いだした。クッパー細胞を薬物を用いて消失させた肝臓では,胆管結紮による慢性肝障害モデルにおける抗アポトーシスの獲得が抑制されていた。一般に,クッパー細胞は肝障害に促進的に関与すると考えられているため,抗アポトーシスの獲得に関与することを発見したことは重要であると考えられる。さらに,クッパー細胞を消失させた肝臓では肝再生や肝障害そのものにも影響を与えた。このことから,クッパー細胞は慢性障害肝において抗アポトーシスのみでなく肝細胞に対して種々の影響を及ぼしており,肝臓の状態によりその役割が大きく変化していることを見いだした。近年,腸管マクロファージのスフィンゴ脂質シグナルが,腸炎における免疫応答に関与するとの報告がなされている。そこで,肝細胞ならびにクッパー細胞におけるスフィンゴ脂質シグナルの抗アポトーシスの獲得への関与を解析するため,スフィンゴミエリナーゼ,セラミダーゼの遺伝子欠損マウスを米国コロンビア大学より移送し,実験に使用できる数まで増殖させることに成功した。今後,これらの動物を使用し,肝細胞・クッパー細胞それぞれでのスフィンゴ脂質シグナルの役割について解析を進める予定である。
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