以前我々は、ネオジェニンのリガンドであるヘモジュベリンが、all-transレチノイン酸によって発現制御を受けていることを明らかにした。そこでレチノイン酸を処理した肝癌細胞株およびマウスの肝臓を調べることで、ネオジェニンシグナルが鉄代謝に与える影響を明らかにできると考えた。 その結果、レチノイン酸処理をした肝癌細胞株ではヘモジュベリンだけでなく、ヘプサイジンや2型トランスフェリン受容体、フェロポーチンなどの鉄代謝関連遺伝子の発現が減少していることが明らかとなった。さらにこのとき細胞内の鉄量および酸化ストレスが減少していた。この原因がネオジェニン/ヘモジュベリンシグナルによるものであることを確認するため、ヘモジュベリンを安定に高発現する肝癌細胞株を樹立し、培地に鉄イオンを添加したところ、細胞内への鉄取込が有意に上昇した。この解析結果からネオジェニン/ヘモジュベリンシグナルは、上記の鉄代謝関連遺伝子の発現制御を介して、細胞内の鉄蓄積を制御している可能性が示唆された。 またレチノイン酸添加食を与えたマウスの肝臓を調べたところ、ヘモジュベリンに加えヘプサイジン、2型トランスフェリン受容体の発現量が低下し、肝臓内の鉄量が有意に低下し、それに伴って肝臓の酸化ストレスも減少した。 以上の結果より、ヘモジュベリンの下流に存在するネオジェニンシグナルの標的因子の詳細は明らかにはできなかったものの、このシグナルは肝臓への鉄蓄積を促進することが明らかとなった。また、我々が行った別の研究では、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)患者の肝臓ではヘモジュベリン遺伝子の発現量が、健常人よりも亢進していることが明らかになった。これらの結果から、ヘモジュベリン発現亢進が肝臓への鉄過剰沈着を誘導し、その結果肝酸化ストレスを増悪させることで、肝発癌に寄与していることが示唆された。
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