研究概要 |
PGは消化管粘膜創傷治癒促進作用や消化管癌の発生や増殖,進展,浸潤,転移に重要な役割を果たしている。しかしながらPGが細胞運動に及ぼす意義については不明な点が多い。一方,上皮細胞が何らかの刺激により間葉系細胞の形態に変化し,それにより運動能などの特徴を獲得するユニークな現象は,epithelial mesenchymal transition(上皮間充織形質転換,以下EMT)と呼ばれており,粘膜損傷の修復や癌細胞の浸潤,転移能の充進のメカニズムの一つとして注目されている。本研究ではPGのうちのひとつPGE_2がEMTを引き起こすかどうかを検討し以下のような結果が得られた。(1)ラット正常胃上皮細胞(RGM-1)を培養し細胞上皮シートを形成させた後PGE_2を添加し上皮細胞マーカーであるE-cadherinの発現について検討した。結果PGE_2はE-cadherinの発現を減少させた。(2)RGM-1を培養し細胞上皮シートを形成させた後創傷モデルを作成し創傷修復過程におけるE-cadherinおよび間葉系細胞マーカーのα-smooth muscle actin(α-SMA)の発現を検討した。その結果,創傷修復過程においてE-cadherinの減少およびα-SMAの発現誘導を認めたがこれらの変化はPGE_2の添加による影響を認めなかった。本年度の研究ではPGE_2を外因性に投与した場合の検討を行ったが,来年度はPGE_2の産生酵素であるcyclooxygenase活性阻害剤を用いて内因性にPGE_2が低下した場合にEMTマーカーがどのような動態を示すかを検討する予定である。
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