肝細胞癌患者のほとんどが肝硬変あるいは線維化の進行した慢性肝炎を合併しているため、全身状態の悪化している症例をしばしば認める。進行例においては集学的治療を十分に行うことができないことが多く、副作用の少ない有効な治療法の開発が急務である。過去の研究において肝癌は自家腫瘍細胞を殺傷できる腫瘍浸潤リンパ球の活発な動員が証明されている。そのような観点から肝癌に対する免疫療法が注目されており様々な腫瘍抗原を標的とした免疫治療法が検討されている。Glypican-3抗原は腫瘍抗原として広く知られており、肝細胞癌においては約70%と高い頻度で発現があるとの報告がある。将来的な肝細胞癌免疫治療の確立のため、我々はGlypican-3抗原に対する抗原特異性T細胞応答を検討し、HLA拘束性細胞傷害性T細胞が認識するエピトープの同定を試みた。Glypican-3抗原のアミノ酸配列からオーバーラッピングさせた20-merペプチドを作製した。肝細胞癌患者より採取した新鮮末梢単核球よりCD8陽性細胞を分離し、作製したペプチドに対するIFN-γ産生能についてELISPOT法を用いて評価した。反応する20merペプチドを確認できた症例より、そのペプチドをベースとして、1アミノ酸をオーバーラップした20merペプチドを作成した。それらのペプチドに対する反応を評価して、エピトープの同定を試みた。さらに患者と同一のHLAタイプを持つ健常者より誘導したCD8陽性T細胞の抗原エピトープに対する反応を評価し、同定されたエピトープのHLA拘束性を確認した。肝細胞癌患者のCD8陽性T細胞をGlypican-3ペプチドで刺激した結果、約8割の症例で免疫応答を認めた。抗原エピトープの同定を試みたところ、Glypican-3についてHLA-B35に認識されるGPC3 286-295(MAGVVEIDKY)とHLA-B40に認識されるGPC3 287-296(AGVVEIDKYW)が、HLA拘束性の抗原エピトープとして存在することが示唆された。
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