本研究の目的は、正常消化管上皮に発現する糖鎖Sd^a抗原の生理的機能を明らかにすることである。平成20年度は、Sd^a合成酵素活性を胃癌および大腸癌細胞株に導入することで作製したSd^a発現細胞株を用い、Sd^a糖鎖を介したシグナルが細胞増殖にどのような影響を及ぼすかを検討した。Sd^a発現細胞株とSd^a糖鎖を発現していない親細胞株との間でin vitroでの増殖性に差は認められなかったが、抗Sd^a抗体を添加した場合にはSd^a発現細胞株においてのみ濃度依存的な増殖抑制が認められた。また、抗Sd^a抗体添加時の増殖抑制はヒト大腸癌細胞株にSd^a糖鎖を発現させた場合には認められたが、ヒト胃癌細胞株にSd^a糖鎖を発現させた場合には認められなかった。Sd^a糖鎖はヒト大腸では主としてムチン型糖鎖として糖タンパク質上に発現が認められるのに対し、ヒト胃では主として糖脂質糖鎖として存在していることから、ヒト大腸においては、Sd^a糖鎖の結合しているムチン型タンパクを介して上皮細胞の増殖制御が行われている可能性が示唆された。正常消化管粘膜に限局して発現するSd^a糖鎖が、胃癌・大腸癌では消失していることは既に知られているが、今回の検討において癌以外の病態におけるSd^a糖鎮発現異常について調べた結果、消化管の慢性である潰瘍性大腸炎においてSd^a糖鎖の発現が著しく低下していることが明らかとなった。
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