本研究ではAngIIを持たないアンジオテンシノゲンノックアウトマウス(AtgKOマウス)を用いて、心筋梗塞および血管障害モデルを作成しinverse agonistのARB(オルメサルタン)によるAngII非依存性のAT1受容体抑制が梗塞後左室リモデリング形成や血管平滑筋増殖に与える影響を明らかにする。またACE-Iを投与しAngII抑制でなくブラジキニン不活化を介したACE-Iの心臓保護効果を明らかにする。8週齢に達したAtgKOマウスは定常状態で血圧60台と低血圧を認めた。これらのマウスにosmotic minipumpを用いてオルメサルタンもしくは生食を4週間投与し同様の計測を行なった。野生型マウスにおいては生食群が血圧100台あるのに対しオルメサルタン群は血圧60台と、有意に血圧を低下させた。しかしAtgKOマウスでは有意な血圧低下は認めなかった。これはAtgKOマウスがすでにレニン・アンジオテンシン系(RAS)が抑制されており、定常状態でAT1受容体がほぼ完全に不活化されていることが示唆された。これらのマウスに心筋梗塞を作成し、心エコー検査により観察を行なうと、生食を投与したAtgKOマウスは野生型マウスと比較して有意に心収縮能の低下が抑制され、左室内腔の拡大も抑制された。AtgKOマウスではオルメサルタン投与群と生食投与群で、この心保護効果に有意差を認めなかった。オルメサルタンを投与した野生型マウスでは有意な心保護効果を認めることから、心保護効果はRAS活性の抑制に依存しており、定常状態で十分にRAS活性が抑制されたAtgKOマウスではAT1受容体拮抗薬であるオルメサルタンの効果が出現しにくいことが示唆された。
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