研究概要 |
心房細動は高齢化に伴いその罹患人口が増加している。合併する脳塞栓症は、寝たきりの原因として重要であり、心房細動の抑制は世界的急務である。イオンチャネル遮断薬である抗不整脈薬による心房細動抑制効果には限界があり、イオンチャネル遮断薬による電気生理学的介入とは異なる新しい治療薬開発が望まれている。電気生理学的介入よる心房細動抑制効果の限界の重要な要因の1つに、心房の構造学的変調(心房リモデリング)が挙げられる。拡大した心房は、心房径拡大という量的問題のみならず、心房筋の質的変調も伴っている。我々の心房拡大モデル(家兎頸動静脈シャント)でもgap junction(GJ)構成蛋白であるconnexin43(Cx43)の発現の低下という質的変調が認められ、同モデルの心房内伝道速度の低下や心房性不整脈易誘発性との関連が示唆された。Cx43の発現変調に関わるメカニズム解明は新しい治療的介入の糸口となりうると考えられ、検討した。拡大心房筋蛋白での検討では、Cx43とβ-catenin及びGSK-3bataの発現低下が認められ、これらのタンパク質の蛋白間相互作用が確認された。MAP kinase(ERK1/2, JNK, p38)の蛋白発現及びリン酸化には差を認めなかった。そこで我々はtight junction associated proteinであるzonula occludens-1(ZO-1)に着目した。ZO-1とCx43は相互作用を起こすことが報告され、ZO-1はCx43がGJを形成する際の重要なadapter proteinとして働く。β-cateninとZO-1を介する機序で、Cx43の膜分画へ輸送や構造の構築に異常を来たし、心房内の電気生理学的変調を来たすという仮説を、培養心房筋細胞系を用いた、伸展刺激と電気刺激を同時に加えることが可能な新しい実験系にて証明を試みた。
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