研究概要 |
徐脈性不整脈は心拍出量の減少に伴う脳虚血症状や心不全症状を引き起こす疾患であり、洞不全症候群や完全房室ブロックなどがある。その発症における分子メカニズムは不明な点が多く、治療法としてもペースメーカ機器の植え込みしかない。我々は心臓の自己調律の発生に重要な役割を果たしている過分極誘発陽イオンチャネルHyperpolarization-activated, cyclic nucleotide gated channe1(HCN)-4に着目し、徐脈性不整脈発症への関与を検討するとともに、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた臨床応用の可能性の高い新たな遺伝子治療を確立することを目的として実験を行った。ビーグル犬に全身麻酔下で房室結節カテーテルアブレーションを行い、完全房室ブロックを作成し、同時にペースメーカ機器を植え込み、40bpmでバックアップ心室ペーシングを行った。心臓刺激伝導系(右脚)に経カテーテル的にAAV-EGFP(対照群)またはAAV-HCN4(治療群)を導入した。観察期間中、AAV-EGFP群では心拍数がペースメーカ機器に完全に依存していたが、AAV-HCN4群では、遺伝子導入2週後から有意な心拍数の増加が認められ、8週後も維持していた。電気生理検査では、AAV-EGFP群ではβ刺激薬に対する心拍数増加反応が不良だったのに対し、AAV-HCN4群ではβ刺激薬に対する反応が良好であった。CALTOマッピングシステムを用いて右室内の興奮伝導様式を解析したところ、AAV-HCN4群では心室補充調律が遺伝子を導入した右脚周囲から発生していることが確認された。また遺伝子導入に伴う副作用や心室性不整脈の増加は認められなかった。AAVベクターは安全性が高くかつ発現も比較的効率良く、かつ長期的であるため、心疾患に対する遺伝子導入法として期待が持てる結果であった。今後、遺伝子導入法の改良や他の因子とのコンビネーション治療など、さらに改善を重ねることによって臨床応用が可能となり、徐脈性不整脈に対する新たな治療戦略になり得る可能性が考えられる。
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